同じ口でも、歯医者によって
「残せる歯」は変わります。

— この記事の監修者
湯口 晃弘(ゆぐち あきひろ)/ 医療法人令徳会 理事長・ユアーズデンタルクリニック院長
日本歯周病学会認定医、EAO(European Association for Osseointegration)認定医、5-D Japan ペリオインプラントコース インストラクター。2026年5月、米国歯周病学会の公式誌 Clinical Advances in Periodontics に筆頭著者として症例報告を発表(DOI: 10.1002/cap.70076)。
プロフィール詳細を読む →むし歯だらけでも、治療には「順番」があります
むし歯が多いと、痛い歯から一本ずつ、場当たり的に治していくことになりがちです。しかしその進め方では、治療のたびに噛み合わせが少しずつ変わり、あとになって全体のバランスが合わなくなることがあります。口の中全体を立て直す全顎治療では、お口をひとつの単位として捉え、次の4つのフェーズで進めるのが一般的です。
- 応急処置フェーズ:痛み・腫れなど、いま困っている症状を先に止めます。食事ができる最低限の状態を確保し、落ち着いて計画を立てられる土台を作ります。
- 原因除去フェーズ:むし歯の除去、根の治療(感染根管治療)、歯周病の基本治療など、悪くなった原因そのものを取り除きます。再発を防ぐための歯磨き習慣も、この段階で一緒に整えます。
- 再建フェーズ:仮歯で噛み合わせや見た目を確かめながら、被せ物・矯正・インプラントなどで「噛める口」を作り直します。
- 維持フェーズ:完成した状態を定期的なメンテナンスで守り、「もう一度ボロボロになる」ことを防ぎます。
この順番が守られていれば、途中で方針を調整することになっても大きな手戻りが起きにくくなります。逆に、原因除去を飛ばしていきなり新しい被せ物を入れると、土台に残った病気が再発し、入れたばかりの被せ物ごとやり直しになることがあります。
同じ口でも、治療計画は3通りに分かれる
むし歯だらけのお口を、3つのタイプの歯科医院が診たとします。下の3つで、治療計画は大きく変わります。
A:保険中心の医院
保険診療が中心の場合、抜歯と神経を取る治療がメインになりやすく、奥歯は入れ歯で噛み合わせを確保する計画になりがちです。これは医院の技術の問題というより、保険制度の中で使える材料や術式、かけられる時間に制約があるためです。制度の枠内で最善を尽くしても、選べる手段の幅がどうしても狭くなります。保険と自由診療の考え方の違いは自由診療の解説記事で詳しくまとめています。
B:インプラント専門の医院
インプラント専門では、メンテナンスのしやすさや計画のシンプルさから、歯並びの悪い歯をまとめて抜歯してインプラントにする計画になりやすい傾向があります。インプラント自体は優れた治療ですが、本来残せたかもしれない歯も神経も失うため、噛み合わせを安定させる難しさも生まれます。抜歯とインプラントを勧められて迷っている方は、「インプラントか、歯を残すか」の判断も参考にしてください。
C:矯正もできる包括的な医院
矯正治療とインプラント治療の両方ができる医院では、倒れてしまった前歯を歯列矯正で正しい位置に戻し、最小限の切削で、神経を残したまま被せ物ができることがあります。AやBでは「抜歯・神経を取る」だった歯が、Cでは「神経を残して保存」になり得るのです。銀歯や古い詰め物のやりかえも、ダイレクトボンディングのような削る量の少ない選択肢を検討できます。
なぜ、医院によってここまで計画が違うのか
不思議に思われるかもしれませんが、これは「診断が間違っている医院がある」という話ではありません。歯科医院ごとに持っている治療の引き出しが違うため、それぞれの医院が提供できる選択肢の範囲内で、誠実に計画を組んだ結果として差が生まれるのです。
引き出しの数を左右するのは、主に次の要素です。マイクロスコープなどの拡大視野の設備、歯周外科・矯正・精密根管治療といった研鑽してきた分野、仮歯を使って時間をかけられる診療体制、そして保険・自由診療の枠組みです。できるだけ削らないMI(低侵襲)の考え方を診療の軸に置いているかどうかも、計画の中身を大きく変えます。
だからこそ、提案された計画がすべてだと思い込まず、セカンドオピニオンで別の医院の意見を聞いてみる価値があります。特に「たくさん抜く」計画を提示されたときは、抜く前に一度立ち止まってください。抜いた歯は戻せませんが、抜くのを待つことはできます。
「神経を残せる」ことの大きな意味
歯の神経を残せると、知覚が保たれ、将来の根の再治療のリスクを減らせます。神経を取ると、きれいなセラミックを入れても、後から根の再治療が必要になるリスクを一生抱えることになります。だからこそ、できる限り神経を残す計画に価値があります。
神経を取った歯は栄養の供給が絶たれてもろくなり、将来的に歯根が割れて抜歯に至る場合もあります。また、根の治療をした歯に歯周病が重なると、エンドペリオ病変と呼ばれる残すのが難しい状態になることがあります。全顎治療の計画を比べるときは、被せ物の本数や見た目だけでなく、「神経を残せる歯が何本あるか」「抜歯は何本か」を見比べてみてください。10年後、20年後の口の姿が変わってきます。
すべての歯を残す計画が、正解とは限りません
誠実にお伝えしたいのは、「1本でも多く残す計画ほど良い計画」とは限らないということです。歯根が縦に割れている歯、重度の歯周病で支えの骨を大きく失った歯、むし歯が骨の深くまで達した歯は、無理に残そうとすると周囲の骨や隣の歯まで悪くしてしまうことがあります。そうした歯は、計画的に抜歯してインプラントや入れ歯で補うほうが、口全体としては長持ちする場合があります。
また、包括的な全顎治療には相応の期間と通院回数がかかり、費用の負担も現実の問題です(費用は治療内容により異なります)。体力や生活の事情によっては、治療範囲を絞った計画のほうが合っていることもあります。大切なのは、残す・残さないの判断に根拠があり、その根拠を説明してもらえることです。「残せる歯」と「残せない歯」を仕分けする考え方は、ボロボロの歯からの立て直しの記事でも解説しています。
治療計画書をもらう意味と、相談までの流れ
全顎治療のように長く大きな治療では、口頭の説明だけでなく、書面の治療計画書を受け取ることをおすすめします。計画書で確認したいのは次の点です。
- 検査結果(むし歯・歯周病・根の状態がどうだったか)
- 歯ごとの診断と、「残す・残せない」の判断理由
- 治療の選択肢と、それぞれの利点・欠点
- 治療の順番と、おおよその期間
- 費用の目安(保険診療と自由診療の区分)
計画書が手元にあれば、ご自宅で落ち着いて考えられますし、家族に相談したり、他院の意見と比較したりもできます。逆に、その場で契約を急がせたり、質問しても計画の根拠を示してくれなかったりする場合は、一度持ち帰って構いません。歯医者が怖くて長年行けなかった方は、歯科恐怖症の記事も読んでみてください。
相談までの流れは、おおむね次のようになります。
- カウンセリング:困っていること、これまでの経緯、ご希望をうかがいます。
- 精密検査:レントゲンや歯周組織検査などで、口全体の現状を記録します。
- 診断と計画のご提示:残せる歯・難しい歯を仕分けし、選択肢と順番をご説明します。
- 応急処置・原因除去から開始:痛みを止め、病気の原因を取り除きます。
- 再建・維持:仮歯で確認しながら最終的な形に仕上げ、メンテナンスへ移行します。
「どこから直せばいいのか」から、一緒に整理しませんか
むし歯が多くても、順番を整理すれば道筋は見えてきます。いま提案されている計画が妥当か知りたい、というご相談だけでも構いません。
ユアーズデンタルクリニックへよくあるご質問
まずは、お話をお聞かせください。
あなたの歯やお口のお悩みを、湯口院長と一緒に考えましょう。
