溶けた骨は、
もう戻らないの?

— この記事の監修者
湯口 晃弘(ゆぐち あきひろ)/ 医療法人令徳会 理事長・ユアーズデンタルクリニック院長
日本歯周病学会認定医、EAO(European Association for Osseointegration)認定医、5-D Japan ペリオインプラントコース インストラクター。2026年5月、米国歯周病学会の公式誌 Clinical Advances in Periodontics に筆頭著者として症例報告を発表(DOI: 10.1002/cap.70076)。
プロフィール詳細を読む →なぜ歯周病で骨が溶けるのか
歯周病は歯周病菌による感染症です。体の免疫とのバランスが保たれていれば発症しませんが、一度発症すると本人も気づかないうちに進行する怖い病気です。中等度以上に進むと、歯を支える骨まで溶けてしまいます。
意外に思われるかもしれませんが、骨を直接溶かしているのは細菌そのものではありません。歯と歯ぐきの溝(歯周ポケット)にすみついた細菌に対して、体の免疫が戦い続ける過程で炎症が慢性化し、その結果として骨が吸収されていくと考えられています。つまり歯周病の骨吸収は「細菌と体のせめぎ合いが、骨の周りで長く続いてしまった結果」です。だからこそ、細菌の量を減らして炎症を止めることが、すべての治療の土台になります。
怖いのは、骨が溶けていく段階では痛みがほとんど出ないことです。歯ぐきからの出血や口臭、歯ぐきが下がって歯が長く見えるといったサインはあるものの、「グラグラする」「膿が出る」と自覚できる頃には、骨の吸収がかなり進んでいることが少なくありません。重度まで進んだ状態については歯槽膿漏(重度歯周病)の解説記事で詳しく書いています。
溶けた骨は、再生できる時代に
一昔前は、溶けた骨を取り戻すのは難しいとされていました。歯周病治療といえば「清掃して進行を止める」ところまでが目標で、失われた骨はそのまま、というのが一般的だったのです。しかし今は、歯ぐきの基本治療を行い、必要に応じて再生手術を行うことで、骨を増やして歯の寿命を延ばせるようになってきました。
「もう抜くしかない」と言われた歯にも、可能性が残されていることがあります。実際、抜歯と言われた歯を残す方法のひとつとして、再生療法は重要な選択肢になっています。もちろん万能ではありませんが、「溶けた骨は戻らないから抜く」と即断する前に、再生の可能性を検討する価値はあります。

歯周組織再生療法の種類
再生療法にはいくつかの方法があり、骨の欠損の形や大きさ、部位によって使い分けます。代表的なものを紹介します。
エムドゲイン(歯周組織再生材料)
歯が生えてくるときに働くタンパク質を応用した再生材料で、骨が溶けた部分に塗布して歯の周りの組織が育つ環境を整える治療です。世界的に長く使われてきた方法のひとつで、垂直性の骨欠損が主な適応になります。詳しくはエムドゲインの解説記事をご覧ください。
骨補填材・骨造成(GBR)
骨が足りない部分に骨補填材を置き、骨の回復を図る方法です。再生材料と組み合わせて使うことも多く、欠損の形によっては骨の高さや幅の回復を助けます。骨造成の考え方はGBR(骨造成)の解説記事で詳しく解説しています。
M-MIST(低侵襲の再生術式)
再生療法は「何を入れるか」だけでなく「どう切るか」も結果を左右します。M-MIST法は切開と剥離を最小限に抑えた低侵襲の術式で、傷が小さいぶん治癒が安定しやすく、術後の腫れや痛みを抑えられる場合があります。できるだけ削らない・切らないMI(低侵襲)の考え方を、歯周外科に応用したものといえます。
これらの組み合わせ
実際の治療では、欠損の形を診断したうえで「再生材料のみ」「再生材料+骨補填材」「低侵襲術式との組み合わせ」のようにオーダーメイドで設計します。どの方法が合うかは、レントゲンや歯周組織検査の結果によって決まります。
再生できる条件・できない条件
誠実にお伝えしたいのは、再生療法は「どんな骨でも増やせる魔法」ではないということです。向き不向きがはっきりある治療なので、条件を正直に書きます。
再生が期待しやすいケース
- 縦方向に深く溶けた「垂直性」の骨欠損:周囲に骨の壁が残っているほど、再生のスペースが保たれやすくなります
- 歯みがきなどのセルフケアが安定していて、歯ぐきの炎症がコントロールできている
- タバコを吸っていない、または禁煙できる
- 糖尿病などの全身状態が安定している
再生が難しいケース
- 全体が平らに下がった「水平性」の骨吸収:再生した組織を支える壁がないため、骨の回復は限定的になりがちです
- 歯のグラつき(動揺)が非常に大きい、歯の根の周囲の骨がほぼ失われている
- 喫煙を続けている、血糖コントロールが不良である
- お口の清掃状態が保てず、炎症が続いている
抜歯や別の選択肢が正解になる場合もある
骨の吸収があまりに進んだ歯を無理に残そうとすると、炎症が続いて隣の歯の骨まで失ってしまうことがあります。その場合は、抜歯して次の一手を考えるほうが、お口全体を守るうえで正解になることもあります。残すか抜くかの考え方はインプラントか歯の保存かの判断で詳しく解説しています。診断に迷ったときは、セカンドオピニオンで複数の見立てを聞くこともご検討ください。
歯周病と全身(糖尿病)の深い関係
近年、歯周病と全身の健康との関係が明らかになっています。糖尿病内科医の西田亙先生は「歯周病が良くなれば糖尿病も良くなり、歯周病が悪化すれば糖尿病も悪化する」と述べています(出典)。歯周病の炎症は、お口の中だけの問題にとどまらないのです。
これは再生療法にとっても重要です。血糖コントロールが悪いと手術後の治りに影響するため、歯周病治療と全身の健康管理は両輪になります。歯を守ることは、全身の健康を守ることにもつながります。
治療の流れと費用・期間の目安
再生療法は「いきなり手術」ではありません。一般的には次の流れで進みます。
- 検査・診断:歯周組織検査と、一本一本の骨の状態がわかるレントゲン撮影で、欠損の形と深さを把握します
- 歯周基本治療:歯石や細菌の除去、セルフケアの確立で、歯ぐきの炎症を鎮めます
- 再評価:基本治療でどこまで改善したかを確認し、再生手術が必要な部位と術式を決めます
- 再生手術:欠損の形に合わせて、再生材料や骨補填材を用いた手術を行います
- 治癒期間とメンテナンス:組織の回復を待ちながら、定期メンテナンスで再発を防ぎます
手術の成否は、実は手術前の基本治療でどれだけ歯ぐきを健康な状態に整えられるかに大きく左右されます。歯周病治療に力を入れる医院の選び方は札幌の歯周病治療ガイドにまとめています。当院の歯周組織再生療法の目安は以下のとおりです(範囲により異なります・出典)。
「骨が溶けている」と言われた方へ
あなたの骨の欠損が再生療法に向いているかどうかは、検査をすればわかります。「抜くしかない」と言われた歯のご相談だけでも構いません。
ユアーズデンタルクリニックへよくあるご質問
まずは、お話をお聞かせください。
あなたの歯やお口のお悩みを、湯口院長と一緒に考えましょう。
