歯を残す治療の用語集|歯周外科・再生療法の専門用語23語

— この記事の監修者
湯口 晃弘(ゆぐち あきひろ)/ 医療法人令徳会 理事長・ユアーズデンタルクリニック院長
日本歯周病学会認定医、EAO(European Association for Osseointegration)認定医、5-D Japan ペリオインプラントコース インストラクター。2026年5月、米国歯周病学会の公式誌 Clinical Advances in Periodontics に筆頭著者として症例報告を発表(DOI: 10.1002/cap.70076)。
プロフィール詳細を読む →この用語集は、歯周外科と歯周組織再生療法で実際に使われる23語を、患者さんが判断の材料として使えるよう、院長の湯口晃弘が書き下ろしたものです。印刷して診察に持参できます。
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— Contents
- 歯ぐきの下がりに関する用語(8語)
- 歯周組織再生療法に関する用語(6語)
- 歯周病の検査に関する用語(3語)
- インプラント・共通の用語(3語)
- 歯ぐきが下がった状態の分類(Cairo分類)
- 2026年に発表した術式について
歯ぐきの下がりに関する用語
歯肉退縮(しにくたいしゅく)
歯肉退縮とは、歯ぐきが下がり、本来は歯ぐきに覆われている歯の根が露出した状態のことです。加齢、歯周病、強すぎるブラッシング、矯正治療の経過などによって起こります。冷たいものがしみる、歯が長く見える、といった形で気づかれることが多い状態です。
根面被覆(こんめんひふく)
根面被覆とは、歯ぐきが下がって露出した歯の根を、歯ぐきで覆い直す治療のことです。歯周形成外科治療のひとつにあたります。どの程度覆えるかは、歯と歯のあいだの組織がどれだけ残っているか(後述のCairo分類)によって変わります。
歯周形成外科治療(ししゅうけいせいげかちりょう)
歯周形成外科治療とは、歯ぐきの形を修正したり改善したりする治療のことです。根面被覆もそのひとつです。歯ぐきが下がった、歯ぐきが薄い、笑ったときに歯ぐきが見えすぎる(ガミースマイル)といった状態を扱います。
→ ガミースマイルの治療|歯ぐきの見た目を変える歯周形成外科
ブラックトライアングル(黒い三角形)
ブラックトライアングルとは、歯と歯のあいだの歯ぐきが下がってしまい、三角形の黒い隙間ができてしまっている状態のことです。後述するCairo分類のRT2やRT3がこれにあたり、根面被覆だけでは治せないと言われています。
CTG(結合組織移植)
CTGとは Connective Tissue Graft の略で、結合組織移植のことです。上顎の口蓋部(上あごの内側)から結合組織を採取して使用します。根面被覆の際に結合組織移植を併用すると、予後が良好であることが分かっています。
FGG(遊離歯肉移植)
FGGとは Free Gingival Graft の略で、遊離歯肉移植のことです。上顎の口蓋部から歯ぐきの表層ごと採取して移植し、角化歯肉を増やす目的で行います。CTGが結合組織だけを使うのに対し、FGGは表層を含めて移植する点が異なります。
角化歯肉(かくかしにく)
角化歯肉とは、歯の周囲にある、硬くて動かない歯ぐきのことです。頬や唇を動かしても引っ張られません。この幅が狭いと、歯みがきの刺激や筋肉の張りの影響を受けやすく、歯ぐきが下がりやすい状態になります。
Thin biotype(シン・バイオタイプ)
Thin biotype とは、歯ぐきが薄いタイプの歯周組織のことです。歯ぐきが薄い方は、同じ条件でも歯肉退縮が起こりやすく、外科処置の際にも注意が必要とされています。
→ 歯ぐきが薄い人ほど、注意すべきこと|Thin biotype
歯周組織再生療法に関する用語
歯周組織再生療法(ししゅうそしきさいせいりょうほう)
歯周組織再生療法とは、歯周病で溶けてしまった骨を再生する治療のことです。後述するNIPSAやM-MISTなどの術式があり、エムドゲインやリグロスといった生物学的製剤を併用します。骨の減り方によって適応が変わり、すべての症例で行えるわけではありません。
エムドゲイン(EMD)
エムドゲインとは、歯周組織再生療法に用いられる生物学的製剤のひとつです。正式にはエナメルマトリックスデリバティブ(Enamel Matrix Derivative)といい、歯周組織がつくられる過程を再現することで、失われた組織の回復を促します。
→ Emdogain(エムドゲイン)とは?歯周組織を再生する代表的材料
リグロス(rhFGF-2)
リグロスとは、歯周組織再生療法に用いられる生物学的製剤のひとつです。有効成分はrhFGF-2(遺伝子組換えヒト塩基性線維芽細胞増殖因子)で、細胞の増殖を促すことで歯周組織の回復を助けます。
NIPSA
NIPSAとは、歯周組織再生療法の術式のひとつで、MGJ(歯肉-頬粘膜移行部)に切開を加えることで、歯間乳頭にメスを入れずに再生療法を行う手法です。歯と歯のあいだの歯ぐき(歯間乳頭)は再建が難しい組織のため、そこを切らずに済ませることに意味があります。
M-MIST
M-MISTとは Modified Minimally Invasive Surgical Technique の略で、歯周組織を温存しながら行う低侵襲な術式のことです。切開の範囲を最小限にすることで、術後の歯ぐきの下がりを抑えることを狙います。
MGJ(歯肉-頬粘膜移行部)
MGJとは Mucogingival Junction の略で、歯肉-頬粘膜移行部のことです。歯の周りの動かない歯ぐき(角化歯肉)と、頬や唇の動く粘膜との境目を指します。歯周外科の術式では、この位置が切開や剥離の基準として使われます。
歯周病の検査に関する用語
歯周ポケット
歯周ポケットとは、歯と歯ぐきのあいだにある溝のことです。健康な状態では1〜2mm程度ですが、歯周病が進むと深くなります。4mm以上が治療の対象となる目安で、6mmを超えると通常の歯みがきやクリーニングでは器具が届きにくくなります。
→ 8020運動の達成率は61.5%。一方で歯周病は47.9%と改善せず
アタッチメントレベル
アタッチメントレベルとは、歯と歯ぐきが付着している位置を、基準点から測った値のことです。歯周ポケットの深さだけでは、歯ぐきが下がっている分を含めた本当の組織の失われ方が分かりません。アタッチメントレベルを見ることで、どれだけ支えが失われたかを評価できます。
エンドペリオ病変
エンドペリオ病変とは、歯の根の中の病気(歯内疾患・エンド)と、歯を支える組織の病気(歯周病・ペリオ)が、同じ歯で重なっている状態のことです。どちらが原因かによって治療の順序が変わるため、診断が難しい病変とされています。
インプラント・共通の用語
GBR(骨造成)
GBRとは Guided Bone Regeneration の略で、骨誘導再生法(骨造成)のことです。インプラントを埋めるための骨が足りない場合に、骨補填材と膜を使って骨の量を増やします。
→ 骨が少なくてもインプラントできる?GBR(骨造成)の解説
オッセオインテグレーション
オッセオインテグレーションとは、インプラント体(チタン)と骨が、あいだに組織をはさまずに直接結合した状態のことです。インプラントが噛む力に耐えられるのは、この結合が得られているためです。
マイクロサージェリー
マイクロサージェリーとは、手術用の顕微鏡を使って行う精密な外科処置のことです。肉眼では見えない範囲を拡大して確認しながら進めることで、切開や縫合を最小限にし、組織へのダメージを抑えることを目的とします。
歯ぐきが下がった状態の分類(Cairo分類)
Cairo分類(RT分類)とは、歯肉退縮を、歯と歯のあいだの組織がどれだけ残っているかで3つに分ける分類のことです。2011年に Cairo らが提唱し、現在の標準的な分類として使われています。どれにあたるかで、根面被覆でどこまで治せるかが変わります。
RT1|歯ぐきの表面だけが下がっている
歯ぐきの表面は下がっているものの、歯と歯のあいだの歯ぐきは保たれている状態です。根面被覆の効果は良好とされ、後述するCAFやトンネル法といった従来の術式で治すことができます。
RT2|歯と歯のあいだの歯ぐきも下がっている
歯ぐきの表面だけでなく、歯と歯のあいだの歯ぐきの下がりも併発している状態です。根面被覆は難しいとされてきました。ブラックトライアングルは、このRT2かRT3にあたります。
RT3|歯周病で歯と歯のあいだの骨が吸収している
歯ぐきが下がっているだけでなく、歯周病で歯と歯のあいだの歯槽骨が吸収してしまっている状態です。根面被覆で覆うことは不可能とされています。
CAF・トンネル法
CAF(Coronally Advanced Flap/歯冠側移動弁術)とトンネル法は、従来の根面被覆の術式のなかで第一選択となる術式です。RT1であれば治せます。いずれも、露出した歯根面に直接、結合組織を設置して覆うことを目的とします。
2026年に発表した術式について
Bottom-up suturing approach with biologic and grafting support for RT2 gingival recessions with papilla deficiency: Two case reports
RT2歯肉退縮と歯間乳頭欠損に対する、生物学的材料と骨補填材を併用したBottom-up縫合法
掲載:Clinical Advances in Periodontics(米国歯周病学会 公式誌)/2026年5月13日オンライン公開
CTG Bottom-up suturing approach(ボトムアップ縫合法)
CTG Bottom-up suturing approach とは、下がってしまった歯ぐきの下に結合組織(CTG)を設置し、歯ぐきごと持ち上げて元の位置に戻す術式のことです。ユアーズデンタルクリニック院長の湯口晃弘が考案し、2026年5月に米国歯周病学会の公式誌に筆頭著者として発表しました。
従来の根面被覆術は、ブラックトライアングルをともなう歯ぐきの下がり(Cairo RT2)に対して予知性が低いことが分かっていました。とくに下顎の前歯は、歯と歯の隙間が狭く、歯ぐきの周囲の筋肉が張っているため、そもそも根面被覆を成功させること自体が難しい部位です。
従来のCAFやトンネル法が、露出した歯根面に直接、結合組織を設置して覆うことを目的とするのに対して、この術式は、退縮した歯ぐきの周囲組織そのものが元の位置に戻ることによって露出面を覆うことを目的とします。結合組織は覆うための材料ではなく、それを下から支える「縁の下の力持ち」の役割を果たします。ここがポイントです。
術式を構成する3つの要素
以下は、論文の要旨として公開されている範囲です。
1|結合組織を基底部に置く二層アプローチ。CAFやトンネル法のように歯冠側へ置くのではなく、歯肉弁の基底部に設置します。
2|歯と歯のあいだへの骨移植と生物学的製剤。歯間部に骨移植を行い、歯周組織再生療法に用いられる生物学的製剤を併用します。構造的な支持を与え、治癒の環境を整えることが目的です。
3|改良型の垂直交差縫合法。移植した結合組織が主導する形で歯ぐきを歯冠側へ移動させ、組織の張力をコントロールします。術式名の「Bottom-up(下から上へ)」は、歯ぐきを上から覆うのではなく、下から支えて元の位置へ戻すというこの考え方に由来します。
論文では、リグロス(rhFGF-2)とエムドゲイン(EMD)のいずれでも同等の良好な結果が得られたと報告しています。切開の位置、縫合の具体的な手順、適応の判断基準は、原著論文に記載しています。
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